11話より妄想です。
何かもう捏造注意!!
記録、記録、久しい記憶―――。
貴方は憶えていらっしゃるかしら。
いいえ、憶えていなくてもいいのです。
今貴方が私の目の前にいる、その事実だけでいいのです。
本国に情報もなく、こうしてエリア11の普通に学生として通っているということは、「皇子」という身分を隠しているためなのだろう。賢い少女はそう考えた。
ジノと並んで立っている彼の姿を撮りながら、もう一度まじまじと観察する。
あの頃から変わらないアメジスト、漆黒の髪、昔見た少年は、立派な青年へと成長していたが今見てもすぐ分かる。間違いなく、私の主のルルーシュ様なのだと。
「ルルーシュ、くん。ちょっと、」
ランぺルージとはあえて呼ばなかった。本当の名で呼びたかったのだ。
いや、確認したかっただけなのかもしれない。もう一度その名を呼んで、自分の記憶の中の彼と、今いる彼とを一致させる証拠が。
ルルーシュは驚いたようにアーニャを見ると、一瞬その瞳に不安の色を宿したが、大人しく部屋を出ていく少女の後を付いていった。
ジノも一緒に来ようとしたが、キっと睨むとしゅんと引き下がる。その視線から何かを読み取ったらしい。多分内容は、「私とルル様の逢瀬を邪魔しようなど百年早い」と言ったところか。
誰にも話を聞かれないよう人気のない廊下の隅に行くと、アーニャはルルーシュの方に向き直る。
警戒しているような視線とかち合った。
「何か用かな?アールストレイムさん。」
「……ルル様、なんでしょう?」
はっと息を飲んだ音。一歩後ずさったルルーシュは何も言わなかった。
「身に覚えがないというならそれでも構いません。今から言う言葉は聞かなかったことにしていただいても結構です。」
また息をのむ音が聞こえた。今度は自分のだ。
「幼いころに騎士にしてくださると言ったでしょう?その約束を果たしに来ました。アリエスのバラ園で交わしたそれが今も有効なら、どうか私を貴方の騎士に―――ルル様っ」
叫ぶようにそう言うと、感情が高ぶったせいか涙が零れた。
次から次からひっきりなしに溢れてくる雫を、ぐしゃぐしゃの顔。
ルルーシュの記憶に蘇るものがあった。
自分がまだあの宮殿に住んでいた時に迷い込んできた小さな少女。
大きな赤いリボンと豊かなピンク色の髪、宮の庭にしゃがみ込んでいた姿、溢れる涙に濡れた顔。
それを自分が見つけ何とか泣きやませて、別れるというときになったらまた大泣きした彼女。
『やだやだぁ!ルルーシュ様と一緒にいるっ。』
『でも、そろそろ家に帰らないとおうちの人が心配するよ?』
『ひっく、いやだもん…帰らないも…うっく』
ルルーシュの服の裾を掴んで必死になる少女に、彼はやむなく言ったのだ。
『じゃあ、僕の騎士になる?』
『“きし”ってなぁに?』
『ずーっと傍にいて、僕のことを守れるくらい強い人。今の君にはちょっと無理かもだけど。』
『っなる!ルル様を守れるくらい強くなるから!だからアーニャと約束してっ』
『あ、名前。』
『なまえ?』
『アーニャっていうのかい?』
『そうよ!アーニャ・アールストレイムっていうの。』
ひまわりのような眩しい笑顔に、ルルーシュは約束したのだ。
『じゃあ約束だよ、アーニャ。ちゃんと強くなってからおいで?』
『うんっ』
埋もれていた記憶は、完璧に復活した。
「今でも泣き虫は治ってないんだな、アーニャ。」
「―――っルル様の前だけです!」
ルルーシュが指で涙を拭ってやると、少女はまたあの時のように微笑んだ。
思い出の中の忘れかけていた彼女との再会を嬉しく思いながらも、素直に喜べないルルーシュがいる。もう昔のような身分ではないのだ。騎士などとれるはずもない。それにアーニャは今は皇帝の騎士だ。二重の騎士契約なんて聞いたこともない。
「アーニャ、残念だけど―――約束を破るよ。」
「―――ルル様っなんで、」
「もう俺は皇族でも何でもない。それに君は父上の騎士だ。」
ぐっと詰まったアーニャに、それでも優しくルルーシュは言う。
「憶えていてくれて嬉しかったよ。でも今は身分はそっちが上だ、そうだろうアールストレイム卿。俺なんか守るにも値しないさ。」
「…ルル様。」
また泣きそうになった少女の頭をそっと撫でながら言う。
アーニャの気持ちは痛いほど分かった。声や表情からもうかがえるから。
だが、伝わっているからこそ、ルルーシュはこの約束を守る訳にはいかないのだ。
「ごめんアーニャ。それに俺はもう違う道を、」
「違う。」
突然、アーニャの声音がはっきりとしたものになる。
瞳もまだ多少潤んではいたが、先程とはまるで違う光を宿していた。
「私『と』貴方の道じゃない。貴方『の』道が私の道なの。」
そっとルルーシュの手を取り、そして口づけた。
「皇子でも庶民でも、悪人でも、ルル様だから守りたい。あの時からずっと、私の心の拠り所は貴方だけです。」
―――誓いは永久に。命が終わるまでお供いたします。
背伸びをしてルルーシュの耳元でそう囁くと、アメジストは緩やかに揺れた。
しかしそれも少しのこと。うっすらと笑みを浮かべたその表情には、もう戸惑いはなかった。
「アーニャにはいつも勝てないな、」
「私は執念深い、ですから。」
言葉を交わして笑い合う。
こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。
嬉しい、楽しい、これが忘れていた幸せ、感情、奪われていた幸せ。
記憶、記憶、新しい記録―――。
貴方は憶えていてくれた。
これから始まる新しい道。
今貴方が目の前にいる、この事実だけで頑張れるのです―――。
End.
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