ただ一時の幸せを。

 

 

いちおうスザク誕生日小説ですが、スザクに優しくないです(笑)

スザルルというよりも、ジノルル・アニャルルよりですが、それでも許せる方のみ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何で誕生日だって言うのに、こんな目に!!
 
           
 
 
 
 
 
 
皇帝から脅しで無理やりふんだくった休暇も、全くの無意味になりそうだった。
てゆーか、こんなにガードが固いと思わなかったのだ。
何って?もちろん愛しい皇子様に決まっている。
通話が終わり電子音しか響かなくなった携帯電話を憎しみの余り握りしめると、
メシャとひしゃげて中の部品やら何やらが飛び出してくる。
だがもうそんなこと気にしていられなかった。誕生日くらい楽しく過ごさせてもらおうと思ったのに、
これじゃ計画が駄々狂いではないか!
そうしてスザクは、先ほどの電話の内容を思い出した。
 
 
 
 
『あのさ、ルルーシュ十日の日なんだけど空いてないかな?もし良かったら、』
『あぁ、悪いスザク。その日はもう予定が入っていて無理だ。』
『え。じゃあ午後からはっ?』
『午後もダメだって。』
『う…じゃあ夜』
『も無理だ。残念だったな。…それにしても十日は軍が休みなのか?』
『は?何言ってんのさ。休暇だよ、個人的な。』
『ラウンズが三人そろって大層なことだな。余程することがないのか。』
『え、何?ラウンズが三人?』
『そうだ。お前に、ジノにアーニャ。ほら、三人だろう?』
『何それ!聞いてないよそんな話!…じゃあ十日の約束してる人って。』
『あぁ、午前はジノと。午後はアーニャとだよ。』
『あの野郎ども…!待て、じゃあ夜は誰とさ?』
『ロロとだよ。何だか誕生日を7月10日にしてくれと駄々をこねられてしまってな。誕生日パーティーだ。』
『あの、僕も誕生日なんだけど。』
『あ、そういえばそうだったな。当日メールでも打っといてやる。』
『やだよ!ていうかロロの誕生日は十月だろ!何で今更変えなくちゃいけないんだよ!』
『自分だけの誕生日が欲しいんだそうだ。言ってる意味は分からないがな。』
『ちょっちょっと待ってルルー』
『そういうことだスザク。じゃあな。』
 
 
 
 
回想終了。
残念なことにスザクには分かってしまった。
ジノとアーニャの休暇の意味も、ロロが急に駄々をこね始めた意味も。
 
 
(俺の邪魔をする気かっあいつら!!)
 
 
恐らく同僚二人と弟はグルなのだろう。
同僚は自分と同じようにロールケーキから休暇をもぎ取り、スザクがその日約束を取り付けるのを予想して敢えてぶつけたのだ。ロロはあれだ。自分の誕生日をスザクの誕生日に上書きして、7月10日を自分のものとするつもりなのだ。何と大それた事をするガキなのか。
というかもう任務なんか関係なくなってるだろ。
ルルーシュをものにするのが彼の任務になっている気がしてきた。それだけは阻止しなければ。
だって、狙ってたのに!初めて会ったあの時から絶対手に入れると心に決めていたのに!
他の二期からのぱっと出なんかに渡してなるものか。いや、渡さない。
そうこの瞬間決意したスザクの顔は、般若とも悪鬼とも言える表情だった。
 
 
 
 
 
***
 
 
 
 
 
「ごめんルルーシュ!遅くなった!」
「いや、構わないよ。それにしても何でそんなにボロボロなんだ…?」
「あ、あー、その。何でもないんだ。気にしないでくれ…。」
 
 
まさか、貴方の元彼の妨害にあいました。なんて口が裂けても言えるはずがなく、ジノは曖昧に笑って誤魔化した。だって、この場で言ったらルルーシュを不安にさせるに決まってるし、なお且つ、アイツがどこから見ているか分からないからだ。
 
 
「ジノ?大丈夫か?何か、意識が飛んでるが…。」
「大丈夫だって!それよりほらっ行こうぜ!」
「あっこら!そんなに急ぐな!」
 
 
ルルーシュの可愛らしい手を取って、颯爽と走りだす。
恥ずかしがりながらもどこか嬉しそうな彼に、ジノも楽しそうだ。
見ろよ、空があんなに綺麗!といいかけて止めた。
見てしまった。否、見えてしまった。
いるはずのないスザクのランスロットが、上空を飛んでいるのを。
 
 
「あっアイツつけてきたのか!?ていうか俺をあれだけ殴っといてまだ足りないって!」
「…おい、何の話だ?何かいるのか?」
「ルル!ダメ!見ちゃダメ!目が汚れるよ!あぁほら行こう!店の中!」
「??あぁ。」
 
 
会わせてたまるか。
悪いのは明らかに自分たちのせいなのに、スザクがものすごく悪いような気がしてならない。
多分、異常ともいえるルルーシュへの執着のせいなのだろうが。
とりあえず店の中なら手も出せまいと、近くのショッピングモールの中へ入り込んだ。
ひとまずは安心だろう。走りつかれて息も絶え絶えなルルーシュをベンチで休ませて、ジノは自販機へ飲み物を求めに行った。
 
 
(飲み物、何がいいのかな?妥当にお茶か?お茶っつっても紅茶かなぁ?)
「ルル様はオレンジジュース。」
「は、」
 
 
横から出てきた手に勝手にボタンを押されて、出てきたオレンジジュースを回収される。
聞き覚えのありすぎるその声に、ジノは少なからず驚いた。
きっぱり、横を見てみるとピンクボーダーのワンピースに身を包んだ同僚の少女がいるではないか。
こんな話、聞いてない。第一、交代の時間はまだのはずだ。
 
 
「アーニャ!何でこんな所にいるんだよ!まだ時間じゃないぞ!!」
「スザクがいる。ジノ一人じゃ心配。」
「…そんなに頼りないのか俺は。」
 
 
特に何の色ものせていないアーニャの目に、ちょっとだけ傷ついた。
あと、飲み物の好き嫌いを知ってるのも何か腹立つし。
 
 
「早く戻らないと。」
「あぁ、スザクがいつ襲いに来るか分からないし。」
「違う、取られる。」
 
 
誰に、と聞かなくても答えはすぐ分った。
特有の、甘えた声が聞こえてきたからだ。
それと、ミルクブラウンの柔らかな髪も視界に入る。
 
 
「兄さんっ寂しかったよっっ」
「―――ロロ!?おま、何でここに!」
「ヴァインベルグ卿があまりにも頼りないから。あと兄さんの顔が見たかったから。」
 
 
にっこり、最上級の笑みを浮かべるロロにルルーシュは何となく納得したのか、「そうか」なんて言いながら少年の頭を撫でる。ジノは羨ましいなぁなんて呟きながら、その様子をポカンと見守っていた。アーニャは記録とか言って写メ。
 
 
「ね、兄さん。お昼ごはん食べに行こう!お腹空いちゃった。」
「そうだな。ジノ、……アーニャも来てたのか。どこかで昼食を取ろう。」
「分かった。」
「あ、じゃあ俺おいしいお店知ってるからそこ行こうぜ!決まりっ。」
 
 
ひと時の幸せを噛みしめるルルーシュの顔は、それはそれは美しかった。
お供の三人も、そんな表情に酔いながら来てよかったと悦に浸る。
ぶっちゃけこの時点で既に忘れていたのだ。
―――セブン様がどんなにお怒りか、を。
 
 
「あった!ここ!おいしいレストラン。」
「おい、ここ高いんじゃないか?悪いがそんな余分な金は出せないぞ?」
「大丈夫。ルル様の分は私が払う。」
「いや、女の子に奢られるのもどうかと思うんだが。」
 
 
いかにも高級、といった雰囲気のあるそこは、きっちりとした制服に身を包んだボーイやウエイトレスが忙しく動き回っている。昼時の今だからこそなのだろう。
これでは席も空いてはいまい。ルルーシュはちょっと残念に思った、が。
 
 
「あの、席って空いてますかー?」
「申し訳ございません。只今満席でして…あらやだ美形!今空けますんで少々お待ちくださいませ!!」
「ありがとーございまーす!」
 
 
顔がいいのはつくづく得だ。
ジノのナチュラルスマイルに中てられたウエイトレスはどこからか席を無理くり空けてきたらしい。三分もしないうちに座れてしまった。
見晴らしの良い大きな一枚ガラスの外を見て、ルルーシュは世の中よくできてるなぁなんて不意に思ってしまう。
 
 
「なぁなぁルルーシュ、何食べたい?パスタ?リゾット?炒飯?」
「ルル様、お水どうぞ。」
「兄さん、おしぼりだよ。」
「お前ら、もう少し自分のことを気に掛けたらどうだ。」
「「「いや、ルルーシュ(ルル様)(兄さん)が一番だから!!!」」」
 
 
それに、と付け足してアーニャは言う。
 
 
「人のことばかりじゃ、ルル様疲れちゃう。疲れたら、壊れちゃう。それは嫌だから、だから私が全部代わってあげたいけどそれは無理だから、だからほんの少しだけお手伝い。」
「……アーニャ…」
 
 
不意打ちの優しさになんだか泣きたくなってしまった。
一生懸命に話す少女の言葉を聞いて、不覚にも瞳がうるんでしまう。
いじらしいピンクの頭に手を伸ばそうとしたその時だった。
 
 
「見つけたァァァ!!ルルーシュ!!」
「!!?なに、ひっ!」
 
 
バリン、とガラスを突き破って出てきた巨大な手にルルーシュは捕まってしまう。
何の手かって言うと、それはランスロットの手で、ということはルルーシュを捕まえたのはスザクっていうことになって。ひきつった悲鳴をあげる御姫様を握ったまま、機体ははるかかなたへ飛んで行った。
何のことやらと固まっていた三人だったが、いち早く気を取り直した少女が店を飛び出し、あとの二人もそれに続く。店の損壊なんか知ったことか。
大事なのは、ルルーシュただ一人なのだから。
屋上まで上って用意していたモルドレッドはすぐさま追いかけるように飛ぶ。
もちろんそんなもの用意してるわけがないジノとロロは走って追いかけるしかない。
ルルへの愛を燃料に走る走る。…多分、どこかで尽きるだろうが。
一方そのころ、高速移動中の二機はと言うと。
 
 
「スザク、ルル様を返して。」
「やだね!誕生日なんだからプレゼントくらい貰ったっていいだろう!」
「もう受け取ったでしょ。私とジノとロロからの《嫌がらせ》っていうプレゼント。」
「んなもんいるか!!俺はルルーシュからのが欲しいんだ!むしろルルーシュが欲しい!」
「ダメ、あげない。ルル様は私のものだもの。私の主様で、私の婚約者。」
「―――嘘だっ!そうだろルルーシュ!!」
 
 
そうだろう、と言われても記憶は奪われて無いという設定であるし、ルルーシュには何も答えることはできない。というか、まず早いところ解放してくれないと窒息してしまいそうだ。息が苦しくて言葉を紡ぐのも難しい状況である。
 
 
「今だけ聞かなかったことにしてやるから本当の事を言ってくれ!」
 
 
一度急停止して、スザクは手中の彼に再度問いかける。
ぜえはあ苦しそうなルルーシュであったが、やっと息を整えて一言。
 
 
「ほ…ほんと、んんんっ!!」
 
 
きゅ、と握る手に少し力が入った。
さらに苦しげな声をあげるルルーシュを見て、アーニャはぷちんときた。
普段の戦闘からは想像もつかないくらい素早い動きでランスロットをスザクごと潰しにかかる。
予想外の行動に反応が遅れて、攻撃を直で受けてしまう。その拍子にぽろんと手の中のルルーシュを落っことしてしまった。
 
 
「ルルーシュっ!!」
「―――ルル様っ!!」
 
 
両機共に手を伸ばすが、届きそうもない。
上空ものすごく高い所から落下するルルーシュを追うが間に合わない。。
 
 
「ほっほああぁぁあぁああぁぁ!!!!」
 
 
もうダメ、と眼を瞑った。
あと三秒で地面…さん、にぃ、いち。
 
 
「ストォォォォォォップ!!!」
「兄さんっ。良かった、間にあった…。」
 
 
間一髪でトリスタンが間に合い、何とかセーフ。
大慌てで来たのだろう。整備中だったのか、色んなコードが付きっぱなしだ。
当の本人のルルーシュは、何が起こったか分からずに目をパチクリさせている。
ジノはきっと戦いを停止した二人を睨みつけると、思いっきり叫んだ。
 
 
「こら!ルルーシュを殺す気かお前たち!」
「だってアーニャが、」
「そう、スザクが、」
「いいわけしないっ!!」
「「はい…」」
「ルルーシュ、大丈夫か?怪我とかは?」
「してない、大丈夫だ。ありがとう、ジノ。」
 
 
スザクもアーニャもしょぼんとするのを見て、ルルーシュはくすりと笑う。
基本、不器用なだけなのだ。このしょうがない子たちは。
 
 
「アーニャは俺を助けようとしてくれただけなんだもんな。ありがとう。」
「ルル様……。」
「スザクも、構ってほしかったんだろ。大丈夫だ、分かってるから。」
「ルルーシュ……。」
 
 
思わずうるるとした視線を向ける二人に、優しくルルーシュは微笑んだ。
 
 
「帰って、スザクの誕生日を祝おう?みんな、一緒にだ。…ロロ、お前もスザクにあんまり敵愾心燃やすな。」
「…はーい、兄さん。」
「ルルーシュ、僕、君に、」
 
 
何か言おうとするスザクの唇を、ルルーシュはそっと指で止める。
まるで、言う必要はないというように。
むしろ、言って欲しくないと言わんばかりに。
 
 
「今日だけは特別だ。」
 
 
特別が何を意味するのかなんてわかりきっている。
だけどそれでも彼がそう言って、今この時だけを許してくれるというのなら。
 
 
「ありがとう、ルルーシュ。」
 
 
ただひと時の、幸せを。
 
 
 
 
 
 
 
 
End.