愛しています、マイハニー!

 

 

 

「ねぇ、ルルーシュ。」
 
 
アーニャがそう言って携帯で差し出した写真は封印した過去のものだった。
思い出したくもない、忌まわしい過去の産物。二度と見るかと思っていたのに。
 
 
「花嫁さん、とってもきれいね。」
 
 
認めたくはないが、そこにはルルーシュ自身の写真があった。
しかも女装。しかも花嫁。しかも頬を赤らめるオプション付き。
しかし何故アーニャの携帯の中に入っているのだろうか。
そこだけが疑問だが、あるものはしょうがない。
消す、徹底的に消してやる。まだ発見したのが少女だけで良かったが、これがスザクやジノに
渡れば何を言われるか分かったものではない。どうせ失笑されるのがオチだ。
現実はそんなこと全くないのだが、ルルーシュはそう考えて抹消することに決めたらしい。
 
 
「あの、アーニャ。それ、貸してくれないかな?」
「どうして?」
「その写真を消s「いや。」
 
 
速攻で拒否されてしまった。
珍しい即答にルルーシュは思わず瞳を見開く。
拒否された以上、これ以上手を出すのは難しい。
かといって、これが野放しというのも嫌過ぎる。
 
 
「あ、アーニャ…」
「ダメ、いくらルルーシュの頼みでもこれは聞けない。」
 
 
思ってたけど、なんて扱いにくい子なのだ!
ルルーシュはうっかり泣きそうになった。
しかもまた厄介なのまでやってきた。これはもうご都合主義としか言いようがない。
 
 
「やっほー先輩っ。あ、アーニャ何だそれ?もしかして先輩?うっわ可愛い!」
「じじじジノ!!馬鹿!何勝手に見てるんだ!覗くな!」
「覗くなって言ってもこれ先輩のじゃないじゃーん。」
 
 
バーンと生徒会室の扉を開けてジノは、アーニャの手元を覗き込むなりカラカラ笑ってルルーシュに絡み出す。慣れ慣れしくもその華奢な肩に腕をまわしてがっちりホールド。
いくらルルーシュでも力技ではかなわない。諦めるように溜息をつくと、ふいに泣きそうな顔になった。
 
 
「ジノ…お願いだ。放してくれ。」
「―――うっ!?」
 
 
上目づかいにしっとり潤んだアメジストがしっかりとこちらを見据えている。
特別意識してやってるわけじゃない。でもそれは反則だろうとジノも泣きそうになっている。
そんな男二人を、アーニャはちゃっかりとカメラに収めた。
ブログにあげようか、否か。若干迷って結局あげないでおいた。
だって、こんな顔のルルーシュを自分以外の人間に見せることがすごく惜しい。
 
その頃ジノもすごく悩んでいた。
ルルーシュのお願いを聞くのも悪くない。むしろ聞きたい。
しかしそれであの写真が消えてしまうのはいただけない。
それにルルーシュの誘惑が半端ないのだ。ぶっちゃけ勝てる自信がない。
理性とかいろいろ限界が近いっていうか、いや待て距離も近い。
うっかり自分が下を向けば、キスができそうだ。身長差万歳!
自覚した瞬間に、またいろいろと取り返しがつかなくなって慌てて妄想をかき消した。
 
 
「じゃあルルーシュ、交換条件。」
 
 
いきなり何を言い出すのやら、少女は人差し指を立ててこう言った。
 
 
「たった一つのことをしてくれるだけで良い。そしたら写真、消すから。」
「えぇぇぇアーニャそりゃないぜ俺も写真欲しいし!!」
「ジノは黙って。」
 
 
一蹴されて犬のようにしゅんとうなだれるジノには、全く威厳が見られなかった。
一方ルルーシュはしばらく考え込んでいたが、結局アーニャに乗ることにしたらしい。
大きなアメジストを瞬かせて、小首を傾げる動作をする。
 
 
「何だその…ひとつのことって?」
「…指輪。」
 
 
そう言ってポケットから取り出したのは、ローズクォーツがはめこまれた小さな指輪。
何でこんなものを常備してるのかと聞きたくなったが、そこは何とか抑えて。
ゆっくり近づいてくる少女を不思議そうな眼で見る。
 
 
「左手の、薬指がいい。」
「え、あ。」
 
 
サイズもどこで調べてきたのか、怖いくらいぴったりだった。
ていうか、左の薬指って何か意味があったような気がするんだけれど、あれ、何だっけ?
などとルルーシュの顔が物語っているのをジノは読んでしまった。
恐らく意味分かってない。天然も可愛いが少しは自覚っていうものを…!!
 
 
「あげる、それ。」
「あ、ありがとう。アーニャ。」
「……ずるい。アーニャ一人だけずるい。」
 
 
異議を申し立てたのはそれまで黙って見ていたジノだった。
膨れるようにむっすり言うと、ずるいを繰り返す。
子供のような仕草を可愛らしく思いながら、ルルーシュは拘束を解きジノに向かい合った。
 
 
「こら、何がそんなにずるいんだ?」
「アーニャばっかり先輩に…あ、そうだ。俺もあげる!」
「??」
 
 
ジノはそう言って、首からぶら下げていたチェーンから装飾品であろうシルバーリングを外すと、
ルルーシュの白く細い手を取り、これまた左の薬指へと進めた。
これでそこに光るリングは二重になってその存在を主張している。
その様子を満足気に見て、ジノはようやく元の笑顔にもどった。
 
 
「うん、これでよし!あげる、先輩!」
「ジノもありがとう。…しかし揃いも揃ってどうしたと言うんだ?」
「ん。写真、消した。」
 
 
アーニャの一言にほっと息をつくルルーシュはとても愛らしい。
だが気付く日は来るのだろうか?その指輪の意味に。
恐らく気づかないだろう様子を伺い、ラウンズ二人は目を合わせて意思疎通。
結果、黙っておいた方が得策ということになりました。
 
 
 
ウエディングドレスなんか着ていなくても構わない。
あなたがそこにいればそれだけでいい。
恋も愛も心が大切なんだもの!
いつかあなたが本当の意味に気がついて、自分から指輪をはめてくれますように!
 
 
(幸せにするよ、マイハニー!)
 
 
 
 
 
 
 
End.