【お願いだから、もう乱さないで。(ロロ→ルル)】
美しい指先がポットの蓋を押さえて、兄さんは僕にアールグレイを淹れてくれた。
砂糖は多めで良かったんだっけ?と訊かれて、少しぎこちなくうんと答えれば微笑むあなた。
ちょっとして二つのティーカップを持ってきて、その内の一つを僕の方に置いた。
白く湯気が上る、香りもよい紅茶を一口啜り、隣の兄さんの顔を窺うと、ふと視線が交わる。
「ん?さっきからどうかしたのか?。」
「え!?…ううん、なんでもないよ。」
思わず勢いよく顔をそらすと、貴方は本当に不思議そうな表情をして自分のカップに口をつけた。
ただし猫舌なせいで飲むのはまだ先になりそうだ。
不本意そうにテーブルにそれを戻すと、お菓子を取りに行くと言って立ち上がってダイニングの向こうに消える。
そのことに気持ち安心して、硬かったろう表情を楽なものにし、また紅茶を一口。
本当に砂糖は多めにしてくれたのだろう。味にも香りにも甘美な甘さが漂う。
それがまるであの人の優しさのようで、僕は自然にまた表情を硬くした。
あなたはひどく残酷、僕がその優しさを恐れてるって分かってて平気で僕の心に踏み込んでくる。
その度にどれだけ気持ちが揺れるか、分っているくせに。これ以上心を乱すのは止めにしたいのに。
「美味しいクッキーがあったんだ。食べるか、ロロ?」
「…うん。頂くよ。」
あなたの一つ一つの行動がまるで蜘蛛の糸のように僕を縛るから、身動きも何もかもが出来ない。
反抗も、逃亡も。
その親愛は偽りだと分かっているし知っている。けれどもそれは抜けることの出来ない甘い罠。
何も術がない僕は、最早それを本当のものだと信じていくしかない。
その親愛は嘘。その信頼は強制された真。
はめられた、と気づくにはもう遅すぎた―――。
《end.》
***
【これでも仲良しなんです。】(ラウンズ三人組)
「アーニャー!な、さっき貰ったやつ食べようぜ!」
「待って。先に記録。」
ピロリン、と軽快な音がしてフラッシュが光った。
何やらこそこそしている同僚の二人組にスザクはそーっと近づいてみる。
ゆっくり、静かに少女の手元を覗きこむと、そこには美味しそうなクッキーが。
「何それ?アーニャが作ったの?」
「違う。…見てもだめ。あげないから。」
「良いよ、お腹すいてないし。二人で食べたらいいんじゃない?」
「うんうんスザク分かってるな!じゃあ遠慮なくいただきますっと。」
ぱくり、とクッキーを頬張り幸せそうな顔をするジノを見て、スザクは呆れたように笑う。
「ジノってそんなにクッキー好きだったっけ?」
「いや。でもこれは特別。だって折角ルルーシュが俺たちに焼いてくれた……あ。」
「ジノ!」
「ジノ…今、なんて言った?」
「は、いや、あはは、何も。言ってない…けど。」
「嘘つけこの野郎。それルルーシュが焼いたやつなの?」
「っそうだよでもさっきスザクはいらないって言ったからやらないかんな!」
「あぁ、いいよ別に。今度焼いてもらうからさ。」
「…でもルルーシュはもうクッキー作るのは飽きたって言ってた。だからもう暫く作んないって。」
「心配ないよ、アーニャ。」
「?」
「攫って閉じ込めてうまいこと調教すれば俺にも作ってくれるから」
「スザク!あげる!クッキーあげるからだからルルーシュにはそんなひどいことすんな!」
「えー、今すごい良いこと思いついたと思ったのに。」
「スザク、はい。」
「あ、ありがと。やっぱルルーシュが作ったのはおいしいね。」
「ひどいこと、したら私怒るから。モルドレッドで潰しちゃうかも。」
「ははは冗談言わないでよ潰れるのは君の方だ。」
「頼むから落ち着いて二人とも!俺の心が心労で潰れそう!!」
「「潰れてろ。」」
後でこっそり泣くジノです。
end.
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