18話派生

 

 

 

 

「一番大切なモノは何だか分かるか、ゼロォ?」
「…っく、」

 
ルキアーノが高々とドリルを見せつけるように掲げる。
ゼロことルルーシュは反射的に目を瞑った。
周りの黒の騎士団の人間達も同様に、ぎゅっとこれから起こるだろうことに備える。

 
「あ、でもその前に顔を暴いてやるっていうのも良いかもしれねぇな。帝国をこれだけ騒がせてくれた団長さんのよォ!」
「なッ!何をするこら止めっっ!」

 
持ち前の鈍さで脱出タイミングを失ったルルーシュの仮面に遠慮なく手が伸ばされた。
そのままスイッチが入り、カランと乾いた音を立ててそれは転がり落ちる。
まずはらりと舞う絹のような黒髪が見え、それから極上の色彩のアメジスト。
それを彩るような真っ白の肌は正直眩しいくらいだ。
一瞬驚いたように目をしばたかせたルキアーノは、カチカチに固まっていた。
怪訝に思ったルルーシュだが、チャンスとばかりにそろそろと後退する。
が、それに気付かないほどルキアーノも馬鹿ではない。
はっと気が付いて、慌てて細腕を引き戻し華奢な体を自分の腕の中に収める。

 
「ひゃっほぁぁああああ!!」
「何つー声出すんだよ…。しかし驚いたな。ゼロが女だったとは。」
「ばっ俺は男だ馬鹿!!」

 
ぷぅと頬を膨らませて怒鳴るルルーシュは、ルキアーノの腕の中でもがくも出られそうにない。
そんな様子を迂闊にも可愛いと思ってしまったルキアーノは、その白い首をすんと嗅ぐように顔を埋める。

 
「わ、わわわ何をする気だ!」
「ゼロさんよォ、俺のあだ名は知ってるかィ?」
「ブリタニアの吸血鬼だろ。それくらい知っている。」

 
馬鹿にするな、と言わんばかりにルルーシュは鼻を鳴らして高圧的に言う。

 
「じゃ、吸血鬼が何をするか知ってるよなァ?」
「当たり前だ。そんなもの血を吸うに決まって、ぁ。」

 
首裏に生暖かいものを感じて、ルルーシュは思わず身を引いたがもう遅い。
唾液で滑る舌がうなじを這うのが分かり眉を顰めた。
ルルーシュが抵抗出来ないのを良いことに、相手はどんどん大胆な行動に移っていく。

 
「ひっ!痛い痛い噛むなぁっ!」
「んー、お前に拒否権はねぇ。」

 
徐々に歯を立てて、その柔肌を味わう。
ルルーシュは時々詰まったような声を上げて抗議するが、聞いては貰えそうにない。

 
「に、にぎゃ!だっ誰か助けっ!」
「ざーんねんでしたぁー。」
「ふぇ…も、やぁ…っ」

 
あまりの羞恥にルルーシュが泣きそうになったその時。
ゼロォォオと言う雄叫びと共に見覚えのある赤い機体が空を駆ける。
何やら悪趣味に改造されているようだが、あれは間違い無くカレンの愛機の紅蓮だ。
その大きな手がルルーシュを浚い、肩へと乗せて飛び去る。
下でルキアーノが騒ぐ声が聞こえるが、そんなもの知ったことかとカレンが悪態をついた。

 
「ゼロ!大丈夫ですか!?」
「…カレン?ほんもの…?」
「はいっ。ゼロの危機と聞いて駆けつけました!」

 
きっと満面の笑みで言ったに違いないカレンを想像して、ルルーシュがほっと息を吐いた。
しかし、受難がここで終わったわけでは決してない。
紅蓮の後方からもの凄いスピードで今度は白い機体がやってくるのが見えたからだ。
もちろん、それはランスロットに他ならないのだけれど。

 
「ルルーシュゥゥウウウウ!」
「ひっ…何か来た!」
「くそっ避けきれない。ゼロ!伏せて!!」

 
え?と可愛らしい唇から漏らした時には、ルルーシュはランスロットの手の中だった。
目的のものを得ると、すぐスザクも逃げに入る。
カレンは一瞬反応に遅れ、ぐるりと辺りを見回した時にはランスロットは遥か彼方に消えていた。
一方、生身の人間に優しくないスピードにルルーシュは乗り物酔いしそうだった。

 
「う、あう…スザ、ぎもぢわるい…」
「ちょっと待っててルルーシュ。今降ろしてあげるから。」

 
ここはどこだと言うような林の中に降ろされて、ルルーシュはキョロとスザクを見る。
スザクは機体から出て来ると、小さく縮こまってしまったルルーシュの頬にそっと手を置いた。

 
「ねぇ、さっきさ、ブラッドリー卿と何してたわけ?」
「う、何もしてない。」
「嘘だね僕見てたもんやらしいことしてたんでしょ!」

 
ルルーシュの癖に!この節操なし!と罵られれば、いくらルルーシュとてカチンと来る。
いわれのない罪にスザクの頭を叩いてやろうと手を振り上げたが、逆に掴まれて捻りあげられた。
小さな痛みに呻くが相手はそんなのお構いなしに顔を近付けてくる。

 
「ね、ルルーシュ。ここは無事?」
「…っ、無事じゃ、悪いのか。」

 
唇を指なぞり尋ねる彼を睨み付けるがそれも逆効果。
煽っただけのようで顎をくいっと持ち上げられる。

 
「いーや、上出来。」
「---やっ」

 
互いの唇が触れるか触れないかという所で、ルルーシュにとっての救世主が来た。
同じ学校の、戦力の期待できる可愛い後輩が。

 
「スザク、人のものにおいたはダメ。」
「アーニャ!どうして…それにルルーシュは君の物じゃないだろう。」

 
少女は不敵に微笑むと、手のひらの小さな機械を掲げて見せた。

 
「発信機。仕掛けておいて正解。」
「このやろうやってくれるね」

 
スザクは喧嘩腰にはなってみたものの、これ以上争う気はないようですぐ引き下がった。
さり気なく、ルルーシュに所有の印を刻んで、だが。

 
「忘れないでルルーシュ。いつか必ず攫うから。」
「そんなもの願い下げだバカスザク!」

 
じゃあねマイハニー☆と手を上げてスザクはランスロットで颯爽と去ってしまう。
一方残されたルルーシュはどうやって帰ろうかと思考を巡らせていると、アーニャがじゃあ、と口を開いた。

 
「モルドレッドに乗っていけばいい。」
「え…でもあれ一人乗りだろう。」
「ルルーシュなら大丈夫。細いから平気。」
「いや、しかし…俺はゼロなんだが。」
「見れば分かる。」

 
逆に何言ってるの?という目で見られて、これでいいのかラウンズ!とルルーシュは頭が痛くなる思いだった。

 
「斑鳩まで連れて行けば良いんでしょう?任せて。」
「あ、あぁ。」

 
無理やりコックピットに二人乗りすれば、密着度も当然上がるわけで。

 
「…記録。」
「ちょっアーニャ!近い!近いから!」
「……(すごく良い笑顔)」

 
写メの餌食になったのは、言うまでもない。



 




End.