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「兄さん、今日誕生日だったよね?」
「…え、あぁ。そうだったな」
生徒会の仕事をロロと二人で片付けて、クラブハウスへと戻ってきたのはもう夜といってもいい時間だった。どこから入ってくるのか隙間風に肩を震わせて、備え付けの暖房の電源を入れる。
少し時間が経たないと温風を吹かせてくれないそれをひとまず放っておいた時だ。
ロロが可愛らしい笑みを浮かべながらそう尋ねてきたのは。
自分でも忘れていたのかもしれない。
あまり実感がなさそうにしながら、ルルーシュはうんうんと頷いている。
そんな様子をほほえましく見つめて、ロロは後ろから小さめの箱を取り出した。
「はい、誕生日おめでとう兄さん。遅くなってごめんね?」
「俺に…、か?」
「うん、だって兄さん誕生日なんでしょ。僕のときだってくれたじゃない」
その時のことを思い出しているのか、携帯のストラップを弄りながらにこりと笑う。
綺麗に包装された箱を受け取ってルルーシュは少し照れたようにうつむいた。
思えば、今日初めて祝ってもらったのかもしれない。
最近はやりのインフルエンザで生徒会メンバーはほとんどダウン。
お忙しいラウンズ様達は仕事で休み。
心を開ける友人が少ないルルーシュにとっては、心から祝われたのは多分ロロが初めてだ。
「ね、開けてみて。兄さんに合うように選んだつもりなんだけど」
「ん…それじゃあ…」
結ばれたリボンをほどいて、水色の包装用紙をそぉっと開く。
中の箱を開くと、出てきたのはシンプルな革ベルトの腕時計だった。
「これ…」
「あの、気に入らなかった…かな?」
「そんなことない。すごくうれしいよ、ロロ」
可愛いかわいい弟の頭を撫でてやって、そこでふと気づく。
見るからに高そうな時計なのだが、これを購入した金は一体どこから出てきたものなのか。
自分はそんなに大量の小遣いをあげた覚えはないし、ロロも貯金しているような素振りはなかったように思う。ルルーシュが不思議に思って尋ねると、ロロはすぅと目を細め、背後に黒いものを漂わせながらこう言った。
「世の中にはね、知らなくてもいいことがあるんだよ?」
この瞬間、初めてロロが怖い(でもやっぱりかわいい)と思ったルルーシュだった。
***
それから、何だかんだで用意してくれていたケーキやらチキンやらちょっと豪華なものをつまみながら(本当にお金はどこから出てきたのやら)しているうちに、時計の針はもうすぐ午後12時を指すところになった。少しばかりうとうとしてきたルルーシュに代わって食器の後片付けをしているロロがふとその音に気がつく。何やらドタンバタンと駆けて来るような足音。それから言い争うような複数の声。いやに聞き覚えがある。これは、この声は本来なら来るはずのない奴らの声だ。急いで玄関に向かうと、丁度チャイムが鳴った所だった。覗き穴から確認する。が。
「お邪魔しますよーっと。」
「何だよスザク。合鍵持ってんならチャイム鳴らす必要無かったじゃん。」
「…無駄」
何故か、都合良く合鍵など非公式なものを所持していた奴が一人。
予想外の展開にあんぐりと口を開ける置物のようなロロをよそに、大胆に家の中に侵入した三人組は好き勝手に歩を進み始めた。
「あ、いたいたルルーシュ。間にあった。誕生日おめでとう!」
「せんぱーい、おめでとうございまーす!」
「…記録」
「は…え?えぇ?ほぅああぁぁぁああ!?」
一瞬遅れて反応したルルーシュに、「遅いよ」と冷静な突っ込みをスザクが入れる。
いやだからどうしてお前はそんなに冷静なんだと、漸く石化が解けたロロが慌ててリビングに戻ってきた。カオスな部屋に困惑しながら、ルルーシュの方を見やる。
やっぱり、彼は混乱していた。
「なっ、なで、何で、…何で?」
「どもりすぎだよルルーシュ。どうしてって、今日は君の誕生日だから、でしょ?」
他に理由あんの?と逆に聞かれれば、ルルーシュも黙ってしまう。
そんな愛しい彼の頭をくしゃりと撫でて、スザクは意地悪く笑って見せた。
「だって、寂しかったんでしょ?」
だから急いで仕事終わらせてきたのに、と文句まで言われてしまう。
まるで何でもお見通しだと言わんばかりだ。
見ればジノやアーニャもラウンズの制服を着たままだった。
恐らく終わったその足で駆けつけてきてくれたのだろう。
12時ギリギリ、間にあったと笑顔を浮かべて。
そんな彼らに、ルルーシュがかける言葉と言ったら、一つしかない。
「………ばか。」
日付が変わってしまう直前に、ルルーシュがもらったものはたくさんの―――。
End.
こんなことぜってえありえないと思いながらもこんなことがあったらなぁって。
ルルーシュ誕生日おめでとう!生まれてきてくれてありがとう。
本当に本当に、大好きです^^
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